自殺防止と学校のあり方

「令和3年度 児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議 審議まとめ」(以下「審議まとめ」)によれば、令和元年度と令和2年度の自殺者数は、小学生8人から14人、中学生は112人から146人、高校生279人から339人といずれもかなりの増加となっています。

 なかでも、女子の自殺者の増加が顕著で、小学生で100%、中学生で46.8%、高校生で75.0%増加しています。

 令和3年度は若干の減少に転じた(100名減)ことから、コロナ禍の影響、特に休校措置による影響が大きいことが推測されます。

 子どもたちは、コロナ禍の休校措置によって、長時間家で過ごすことを余儀なくされました。友達と会って、何気ない会話をすることさえできない状態が長く続きました。このことが何らかの影響を与えたことは十分に考えられます。

 しかも、保護者もテレワークなどによって在宅勤務が増えたため、もともと親子関係に苦しんでいた児童生徒にとっては、非常に厳しい環境になったとかんがえられます。

 すなわち、関係が悪くなっている保護者と過ごす時間が増え、これまで日中友達と交流することでできていた気分転換や気晴らしなど、精神的に解放される時間が極端に減り、極度に息苦しさを感じる子どもが増えたのでしょう。なかには、家屋の関係(自分の部屋がないなど)によって必然的に保護者と長時間同室にいなければならなくなったために精神的に追い詰められてしまった子も少なくないでしょう。

 そして精神的に追い込まれた上に、せめてSNSなどで友達とつながろうとしても、すぐそばにいる保護者から「いったい何時間スマホばかりやっているんだ」などといった叱責の機会が増え、さらに追い込まれてしまったとも考えられます。逃げ場がない状態に追い込まれてしまったのです。

 女子の自殺者数が増えた原因については、専門家でもない私が軽々に語ることはできませんので分析は控えますが、明らかに有意な差はあるだろうと思われます。

 先に挙げた文科省の「審議まとめ」にもあるように、皮肉にもコロナの拡大による休校措置によって、子どもたちにとって学校が大きな意味を持っていたことが明らかになりました。日常的に、友達に会い、様々な行事や取り組みによって創造的な活動を行なうことが、子どもたちの命を守るために大きな貢献をしてきたのです。それが強制的に停止されたことによってくっきりと浮かび上がってきました。

 こうした状況を踏まえて、私たち学校関係者が考えなければならないことは主に次の二つであると思います。

 一つは、仲間と呼べる存在の重要性を教員が今まで以上に理解することです。学力の保障も大切ですが、学校で様々な人と触れ合うことの重要性をこれまで以上に自覚しなければなりません。やはり人間は一人では生きていけないのです。「審議のまとめ」にもありますが、自殺の原因の中で精神疾患に関わるものが最も多い(ただし、この分析が警察による聞き取りをもとにしていることには注意が必要ですが)ことは、そのことを如実に物語っています。

 もう一つは、コロナ以前から不登校児童生徒が増えていることをどうとらえるかです。コロナが明らかにした人と繋がりの重要性を目の当たりにして、考えるべきことは、コロナ前から、その繋がりを絶たれてしまっている子どもがたくさんいるということです。そこにこそ目を向けなければなりません。

 換言すれば、そうした子どもたちを生み出しているのは、現在の学校のあり方そのものに原因があるのではないかという視点を持たなければならないということです。令和2年度に比べて令和3年度の自殺者が100名減ったといっても、まだ一年に400人近くの子どもが自ら命を絶っているのです。当然のことながら、その原因をコロナに求めることはできません。

 学校にとっては当たり前の日常が、実は不登校を生み出している要因になっているのではないかと内省することが必要なのです。

 それは、不登校の児童生徒を減らすことを目標にしていたのでは根本的な解決にはなりません。学校のあり方が、本当に子どもにとって魅力あるものになっているのか、どうしても学校に来られない子どもに信頼できる誰かに繋げる方策は他にないのか、それを問い続けなければ悲劇を失くすことはできないでしょう。

(作品No.206RB)

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