職員の不祥事に対するクライシスマネジメント その2

前回の続きです

4 保護者への対応

 今は、緊急メールなどで保護者に一斉に連絡することも簡単になりました。保護者会の日程が決まればできるだけは早く知らせることです。実際に説明会の内容をどうするかはそれからでも遅くありません。この連絡が遅れれば遅れるほど、保護者の中に不信感が広がってしまいます。今やSNSでこうい情報(不祥事があったこと)はあっという間に広がります。学校への不要な問い合わせを抑える意味でも迅速に行うべきです。

厄介なのは、「学校はどう責任を取るつもりだ」と名を名乗らずに怒鳴り散らすような電話です。マスコミで報道されるとすぐにそういう電話がかかってきます。こちらが100%悪いとわかっているから言い放題です。そんな電話は取らないのが一番かもしれませんが、なかなかそうはいきません。学校には、不祥事に関係ない内容の電話もあるからです。また、バタバタしているなかで思わずとってしまうこともあります。そういう電話に対してはとにかく言いたいだけ言わせておけばいいのです。「名前」を言わない時点で、無責任なわけですから、まともに相手にする必要はありません。ひたすら謝り、詳細は説明会でさせていただきますとだけ伝えれば十分です。

5 保護者会について

 事件が発覚したのが平日であれば、その日の夜には実施するのが理想です。そうしないと、次の日子どもたちが登校してきます。何もしないまま子どもと向き合うのはよくありません。事件の発覚が放課後、それも遅い時間だとどうしようもないこともありますが、それでも翌日には実施すべきでしょう。

 保護者会には、必ず市町の教育委員会にも同席してもらいます。それも、課長クラスの人でないと意味がありません。指導主事レベルにしてしまうと責任のとれない者(指導主事は管理職でありません)がきてどうするんだと、火に油の状態になりかねません。また逆に教育長まで呼んでしまうと、今度はその後の切り札がなくなってしまいます。やはり課長クラスの人に同席願うのが一番でしょう。 

司会進行は教頭が行い、説明と質疑への応答は校長が行うべきです。事の経過(事実の確認)は教育委員会からでもいいし、教頭でもいいとは思いますが、校長が前面に出ることで、保護者に対する謝罪の気持ちが伝わりやすくなります。万一、校長が失言してもそこは教育委員会がフォローしてくれます。とにかく、誠意を伝えることが一番です。

 また、職員はよほどのことがない限り全員出席すべきです。何も発言する必要はありませんが、全員が参加することで学校全体の問題としてこの事態に臨んでいるという誠意を示すことができます。服装もスーツなどフォーマルなものとすることが大原則です。特に発覚の翌日以降に開催する場合は「準備できたはずなのに」と保護者は思います。「こんな事態に、なんであんないい加減な服装で・・・」と思われたらどうしようもありません。

なかには、「こういうときは管理職だけで対応すべきだ」と主張する職員もいますが、だいたいそういう人は、保護者会が不調に終わったときには真っ先に管理職批判を始めます。また、自分はまるで部外者のような気でいるものです。そいう人にこそ説明会という、一種の修羅場に近い現実を見せておくことが必要です。事態は、こんなに深刻なのだということを実感をもって経験することが再発の防止にもつながります。

 もう一つ大切なことは、説明会を終えるタイミングです。これは進行役の教頭にしか判断できません。校長に「この辺で・・・」と言わせては絶対にいけません。意見が出尽くしたり、今後の方向性がみえてきたりした時点できっぱりと「今日はありがとうございました」と言い切ることです。教頭が「今だ」と思ったタイミングが保護者の感覚とズレていたら、場内はざわつくでしょう。そんなときは、校長が「教頭先生、まだ、意見が出尽くしていませんよ」といえばいいのです。

 前回から2回にわたって書いてきました。これが「正解」だとは思いません。危機対応というのは、原則はあってもそれを実行する人のタイプでも微妙に変わってくるでしょう。また、自分が教頭なら、校長と意見が異なるようなとき(例えば、電話はいっさい出るなとか)には、非常に動きにくくなることもあるでしょう。反対に自分が校長で教頭が思ったように動いてくれないと、事態をさらに混乱させることもあるでしょう。最後はケースバイケースとしか言えないのかもしれません。

ただ、私が幸運だったのは、県教委にいたときに上司に危機対応の経験が豊富な方がいて、細かく教えてもらっていたことです。今回書いた内容も、実際に危機対応にあたったときも、ほとんどその上司に教えてもらったことです。最初に事件を知ったとき、一瞬目の前が真っ暗になるほどショックを受けましたが、その後すぐにその上司の言葉が浮かんできました。

「とにかく、まずは記録を取れ」。

それで、かなり落ち着きました。何をすればいいのかがわからないほど辛いことはありませんから。

仕事にはとことん厳しい上司でしたが、今は感謝しかありません。

(作品No.150RB)

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