職員の不祥事に対するクライシスマネジメント その1

職員の不祥事はあってはならないことです。しかし、管理職がどんなに注意していてもすべて防げるとはかぎりません。明らかな犯罪行為では、学校が言い訳ができないので地域住民やマスコミも攻撃しやすくなります。子どもが命を落とすような事件に比べれば、まだましとはいうものの、対応を間違えば学校の信頼は一気に崩れてしまいます。この手の話に関するリスクマネジメント(事前にリスクを減らすこと)は、しばしば紹介されていますが、クライシスマネジメント(事後の対応)の具体についてはあまり語られることはありません。そこで、今回は、2回に分けて私の経験も踏まえながらリスクを最小限にする事後の対応をまとめてみました。

1 記録を細かく取る(教頭、校長ともに)

 これは、どんな危機的状況にも共通することですが、事が起こった直後から絶えずノートと筆記用具を手許から離さず持っておき、できるだけ細かくその場で記録をとることです。そのときに大切なのは、必ず日付、時刻を書くことです。明らかな不祥事の場合、できるだけ早い時期に保護者への説明会を開かなければなりません。そのときに、いつどんな流れで学校が事実を知ることになったのか、それに対してどんな対応をしたのかが曖昧であると、それだけで不信感につながります。学校が即座に対応したことを知らせるためにも時系列に整理しておくことが重要です。

ときには、その日のうちにニュースがネットやテレビに流れることもあります。そうなると職員を始め、予想外の反応が次から次へと起こります。そんなバタバタしているなかで記録をとるなんて無理だと思われるかもしれませんが、急な事態で管理職までもが冷静さを失っては職員が浮足立ってしまいます。細かな記録(メモ)をとることで、何をどうしたらいいかと焦る自分の気持ちを落ち着かせる効果もあります。時間があればエクセルなどを使って記録を入力しておくと、あとで簡単に時系列に並べることができます。

 また、誰が、いつ、何をしたか(されたか)、電話の相手の氏名と対応した者の名前なども細かく記録することが大切です。記録は原則として教頭がとることになるでしょうが、できれば校長や教務主任などにも可能な範囲で記録を残すよう確認しておく必要があります。一人では、重大な内容が抜け落ちる場合があります。

2 職員への対応

 事情のよくわかっていない(不祥事の事実さえも知らない)職員が電話に出ると思わぬ情報漏れにつながることがあります。やはり窓口は一本化することが大切です。窓口は原則として教頭に一本化するのが妥当でしょう。また、休日の場合はメールやラインを使って、いつでも学校に出て来られるよう職員に連絡しておくことも重要です。その場合は服装もフォーマルなものを持参するように伝えておきましょう。

  また、職員の動揺を鎮めることも大切です。職員を招集した際に、最初に冷静に行動するように指示をします。私の場合は次のように言いました。「どんな困難も必ずいつか収束します(自信はなかったのですが、あえて語気を強めて言いました)。今大切なのは、収束した後に職員の間に「しこり」を残さないことです。互いを責め合うような発言だけは絶対に謹んでください」。実際、こういう事態が起こると対応の仕方で意見が分かれ、職員の中にぎくしゃくした空気が流れやすくなります。せっかく事態が収集したのに、ぎくしゃくした関係が残ってしまったら、その後の学校経営に大きな影響を与えかねません。

3 マスコミ対応

学校関係者にとって、マスコミは大きな脅威となることがあります。いきなり電話がかかってきて、不祥事を起こした者に関する聞き込みをしてきます。そいうとき、マスコミには何も言うなとか、電話には一切出るなという校長もいるようです。しかし、そういう対応をすれば、マスコミは学校に直接やってくることになります。電話ですむところを押しかけてこられたら、余計に事態は複雑になります。こういうときほど冷静に対応しなければいけません。つまり、マスコミ側の立場に立って考えてみるのです。おそらく、電話をかけてくる記者は、上司の指示で動いています。記者であっても人間です。学校が今回の騒動で混乱していることくらいはわかっています。「仕事」として電話をかけてくるのです。その記者に対して、「何も言えない」の一点張りでは、相手の神経を逆なでしてしまいます。こういうときほど、マスコミを味方につけてやろうというくらいの冷静さが必要です。特に、不祥事を起こした者の基礎情報、例えば、性別、年齢、校務分掌、学年所属などについては、学校が知らないはずがありません。そのレベルまで言わないとなるとマスコミ側は「隠蔽」を疑います。そうなると余計に攻撃がひどくなります。意外に思われるかもしれませんが、マスコミ対応の基本は「ウソをつかない」、「隠さない」ということです。そういう姿勢で対応すれば、記者の方から「先生も大変ですねえ」と、こちらをねぎらうような言葉が出ることもあります(実際、私は電話の最後にそういわれました)。

ただし、まだよくわかっていないことは「わからない」とはっきり言うべきです。多分こうだろうということは絶対に言ってはいけません。また、校長でないと判断できない場合は、「〇時くらいには校長が戻りますので、もう一度おかけ直しください」と、こちらの誠意を見せたうえで、一旦電話を切り、時間を稼ぐことも大切です。だいたいこういう事態のとき校長は警察や教育委員会に呼ばれて事情聴取をされることが多いので、どうしても不在がちになります。トップがいない間に「判断」をしてはいけません。マスコミにウソをつかないというのは、あくまで客観的な情報の提供であって「判断」ではありません。

蛇足ですが、普段から地元の新聞社に学校の前向きな取組を知らせるなどポジティブな記事の提供をしておくことも必要です。また、地元の新聞記者や会社の電話番号をあらかじめ学校の電話に登録しておくと、ナンバーディスプレーで確認できます。電話を取る前のほんの一瞬のことですが、相手が誰かわからないで出るより、はるかに落ち着いて対応できます。

(次回は、保護者対応と保護者説明会の進め方について書こうと思います)

(作品No.149RB)

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