私は教諭時代、毎年学級通信を出していました。多いときは、年間260号くらいになったこともあります(数が多いからいいというものでもありませんが)。学級通信を出す最大の目的は、担任の考え方や学級の様子を家庭に伝えるためだと言われますが、私にとってはそれだけでなく、忘れっぽい私の防波堤でもありました。日程表や事務的な連絡も紙で渡すことによって、言い忘れ防止にもなったのです、
でも、それ以外にも多くの効用があります。以下に注意事項も含めて、主なものをまとめてみました。あくまで私の個人的見解としてお読みください。
第一の効用は、出すことによって生徒を細かく見る習慣が身についたことです。これが実に意義のあることだと思います。学級通信は、生徒の様子を伝えるのが中心になりますので、生徒の姿から「ネタ」を探すのが一番です。しかも、後々まで残る「紙」で渡すのですから、悪いことは書けません。自ずと生徒の良いところを探すようになります。そして生徒の良いところを見つけるのが楽しみになります。その姿勢が生徒に伝わり、互いの良好な信頼関係の基盤となります。ただ、中学生の場合、どんなに素晴らしい行動であっても、名前を出されるのを嫌う傾向があります。最悪の場合、書かれたことで、からかわれたり、いじめられたりするきっかけになる可能性もあります。そうなると書かれた生徒は、その後、積極的に行動できなくなってしまいます。私は、良いことであっても名前を伏せるようにしていました。それでも、本人は自分のことだとわかります。「先生は、こんなところも見てくれているんだ」という安心感を与えることができます。名前を出すのは、部活動の成績や合唱コンクールの指揮者、伴奏者、係の割り当てなど、客観的な事実に限っていました。ただ、小学生、特に低学年では逆に名前を出した方が本人も保護者も喜んでくれるのかもしれません(小学校での担任経験がないので、これは想像でしかありませんが)。ただ、その際には年間を通じてどの子も同じように(一定の子に偏らないように)書くことが必要だと思います。
他に、自分の実践記録になるという効用もありました。通信はかつて自分が同じような場面で何を考えていたのかを振り返ることができます。それを見返すことで新しいアイデアが生まれる経験を何度もしました。今はパソコンで作ることができるようになりましたから、データとして残すことも簡単です。今でも「手書き」にこだわっている人もいます。パソコンにはない独特の温かさや自分らしさが表現できる効果は見逃せません。それでも、写真に撮るなどして、電子データとして保存しておくことをお勧めします。
また、保護者と出会ったときに、まず「いつも通信ありがとうございます」という話から入れるのも大きな効用の一つでした。保護者との会話が感謝の言葉で始められるのは、学級経営に絶大な効果を生み出します。クラスを大事にしているという姿勢を伝えるには最適な方法だと思います。通信を出すのは義務ではありません。あくまでもプラスアルファなのです。やらなくてもいいことだからこそ感謝してくれたのだと思います。
私が有り難かったのは、当時通信を出さない先生から何もクレームがなかったことです。「そんなに出したら、出さない担任が非難されるじゃないか」というようなことは一言も言われませんでした。当時の中学校では、出しているクラスがあまりなかったからかもしれません。とにかく、義務だと考えると出す方もしんどいし、嫌だなあと思いながら出している通信を読んでも面白くないでしょう。もともと、学級通信は無理して出す必要はないのです。通信以外の形で(自分の得意な方法で)伝えられればそれでいいわけです。
そして、書くときに忘れてはいけないのは、紙は残るということです。その頃も学級通信に提出物の状況を載せたり、問題行動についてあからさまに書いたりする人がいましたが、よくもそんなことができるなあと思いました。私は、良いことは「残る」通信で、悪いことは残らない(生徒の記憶には残りますが)口頭で伝えるようにしていました。さまざまな効果のある学級通信ですが、記憶だけでなく「記録」としていつまでも残るという怖さは自覚しておく必要があります。
また、出すと決めたら年間を通じて継続して出し続けることが大切です。そのためにはできるだけ短時間に作成することです。時間をかける「大作」は年に数回、「ここぞ」というときだけでいいと思います。私は、出し始めたときは、一枚書くのに2時間くらいかけていたこともありましたが、数年後からは、30分以内(そのうち10分程度で書けるようになりました)で書くと決めました。その方が長続きします。途中で挫折すると、それだけで、読む側の信頼を失うことになりかねません。途中でやめるくらいなら初めから出さない方がましだと思います。実際、新任のときに一学期の途中で学級経営がうまくいかなくなり、途中で出すのをやめたら、学級懇談のときにかなり厳しく保護者からお叱りを受けました。「先生が、やり始めたことを途中でやめるってどういうことですか!」と。
他にも、自分が出張で一日学校にいないときに生徒の手に渡るようにしたこともありました。これが意外と効果的で「こんな日にも出るんだ」と生徒は驚きとともにとても喜んでくれました。いつも自分たちのことを大切に思ってくれているんだという気持ちで受け止めてくれます。
忙しいなかで定期的に学級通信を出すのは大変かもしれませんが、出し方によってはローコストでハイリターンなものにすることができます。大切なのは、無理をしないこと、自分が楽しむことです。繰り返しになりますが、学級通信は「出さなくてもいい」ものです。必須の業務ではありません。でも、そうであるからこそ、効果的なのです。
(作品No.49HB)