制度疲労という難問への挑戦 その2

学校の制度疲労を克服するために大切なことの一つに、高校入試のあり方があります。

H県とS県では、高校入試に用いる調査書の考え方が180度違います。

まず、H県は本年度末の入試から、調査書の内容を大幅に削減する方針を示しました。各教科の評定以外は、部活動の成績や特別活動(生徒会)などの記録、欠席状況も記載しないとしたのです。そのうえで受験生には、自己表現を課します。プレゼンテーションなど生徒独自の工夫も受け入れるようです。

H県はもともと調査書そのものを不要なものと考えているようで、かねてから文部科学省に廃止の許可を求めてきたのですが、学校教育法施行規則という「法の壁」に阻まれて実現できないでいました。そこで、今回学業成績以外は姓名などの基本事項と学習の評定だけに記載事項を限定したのです。

対照的なのがS県です。読売新聞(11月1日付)が報じたところによれば、S県立高校では、部活の実績や生徒会活動などを点数化するそうです。本年度の進学説明会で明らかにしたとのことですから、本年度末の入試から導入するのでしょう。

ちなみに、学力テスト500点に対し、調査書の点数配分は、成績評定が210点、特別活動(部活動や生徒会活動など)に上限67点を配し、その他(英検2級以上、囲碁・将棋各四段以上など)としている。特別活動のうち生徒会活動については、生徒会長と副会長に限定しており、部活動については全国大会・県大会への出場、入賞、優勝などとされています。

(私の知るところでは、S県では各学校で比率が違うようです)

 さて、入試を実施するにあたって欠かせない条件とは何でしょうか。

 さまざまな点が挙げられると思いますが、ここでは、二つだけ取り上げます。

一つは公平性です。特定の受験生に不利になるような基準で選考することは許されません。公平性を担保するには、入試の合否を決める基準をあらかじめ公表することが必須です。内容は違っても、いずれの場合も問題はないように思います。ここには書きませんでしたが、H県も配点について公表しています。

もう一つが、中学校での学習活動を阻害する内容になっていないかということだと思います。そんなこと、入試に関係ないと言う人もいるかもしれませんが、入試で何が問われるかは、中学校の授業や特別活動に大きな影響を与えます。五教科の学力テストを課している点では両者共通していますが、それ以外のところでは大きく違います。どちらが中学校の教育にとって有益かという視点は欠かせません。

一見、特別活動や部活動などを合否判定に用いるS県の高校の方が、中学校での生徒の頑張りを広く視野に入れているという点で妥当性が高いように感じます。しかし、本当にそうでしょうか。

例えば、生徒会活動について言えば、生徒会長と副会長にならなければ原則加点されません。他の各員会の委員長レベルではだめだという根拠がよくわかりません。また、加点されるとなると、いざ生徒会長に立候補しようとしても周囲から「入試のためだろう」というやっかみが入り、立候補しにくくなるという事態が生まれるかもしれません。そもそも、生徒会活動は入試のためにするものではありません。その辺をどう考えているのでしょうか。

特別活動について研究している、ある大学教授に「特別活動というのは、絶対にこれだけはやらねばならないという制約がないからこそ、意義のある活動ができる」と聞いたことがあります。所謂「ひも付き」ではないところが、特別活動の良さだというわけです。体育祭のプログラムや合唱コンクールの楽曲には、制約がありません。そもそもそれらをやらなければならないという規制はありません。自由度が高いからこそ、そこに創意工夫が生まれるのです。純粋な活動を保障するなら、入試とは完全に切り離した方がリーダーである生徒会長ものびのびと活動できるのではないでしょうか。

部活動についても、全国大会出場などが挙げられていますが、個人でも団体でも同じように扱うのでしょうか。総じて団体競技の方が勝ち上がるのが難しいものです。団体競技は一人の思わぬミスによって上の大会に進めなくなることもあります。ミスをした生徒が、試合後も自責の念を長く引きずることのないように願うばかりです。生徒会活動と同じく、部活動も、勝つためだけにするものではありません。そもそも、全国大会や県大会といった大きな大会への出場は、生徒が成長するために必要な「手段」であって教育的な「目標」ではありません。生徒は「目標」と考えているかもしれませんが、顧問までが結果を「目標」や「目的」にしてしまえば、負けた瞬間に生徒に何も残りません。また、勝ち上がれなかったチームや個人を心からねぎらえる気持ちが育つとは思えません。

私の狭い知見によるものかもしれませんが、どちらかというとH県方式の方が入試のやり方としては妥当だと思います。もし、S県が生徒会活動や部活動を入試に結びつけることによって活性化しようと考えているとしたら、まさに本末転倒です。生徒同士が、互いに疑心暗鬼になる場面が増えるだけです。

(作品No.182RB)

 

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