ある県で、令和5年度採用分の教員採用試験の倍率が、ついに1.0倍となりました。事態は本当に深刻です。最大の原因は、長すぎる教員の勤務時間にあります。働き方改革は、すでに現職教員の意識改革でどうにかなる段階ではありません。思い切った業務削減の方向で考え直さなければ、近いうちに学校は立ち行かなくなるでしょう。文科省は土日の部活動を外部委託する方針を打ち出していますし、学校への留守番電話導入もかなり広がってきました。しかし、今後、根本的な改革として給特法の改正や勤務契約の明確化などが急務であると思います。
そうした状況にあって、私たち現職の教員にとって、今ここで必要なこととはどんなことでしょうか。今までのやり方を見直し、できるだけ無駄のない仕事の仕方を工夫することも大切です。行事の精選も必要です。また、同じ仕事をするにしても必要以上にこだわりすぎないことも必要かもしれません。また、積極的に現在の勤務状況のおかしさについて主張することも大切です。現場が黙っていたら、教員採用試験の倍率低下はさらに深刻なものになるでしょう。
でも、今一番やらなければいけないのは授業力の向上だと、私は思います。
「何で?」と思われるかもしれませんが、近い将来、働き方改革の成果によって仕事量が減ったとき、私たちに問われるのは「授業で生徒を惹きつける力」であり、「確実に学力を身に付けさせる指導力」となるでしょう。これまで部活動は(その経営がうまくいけば)、授業や学級経営に大きなプラス効果を生み出してきました。それは、部活動の顧問と部員との信頼関係が他の学校生活にも大きな影響を与えてきたからです。また、留番電話導入などによって放課後の保護者対応が減るかもしれませんが、保護者や生徒の視線は、より授業に向けられることになると思います。私たちの本務は授業ですから、当たり前と言えば当たり前なのですが、これからは今まで以上に、高い授業力が求められるのは間違いないと思います。
ブラックとまで言われている教員の職場を改善するのは急務です。若い人たちが一人でも多く教職に就きたいと思えるようにしないと、大変なことになります。でも、過渡期に働く教師が頭に置いておくべきことは、今までよりも確実に生徒や保護者との接点は少なくなるということです。それをどうやって埋めていくかを、改革が進んでいない今だからこそ考えておかなければいけないと思います。今でさえ、学校に対して理不尽な要求をしてくる保護者が後を絶たない状況です。今後、部活を外へ出し、行事を減らしたり外部委託したりするなかで、これまで以上に不平不満を言ってくる保護者は増えるでしょう。少なくとも改革がある程度進み、定着するまでの間は保護者の不安も大きくなります。その不安がクレームとして学校に寄せられることになることは容易に想像できます。今は改革が遅々として進んでいないように見えますが、恐らく今後どこかの時点で加速がついてくるときがきます。そうしたときに私たちに残された武器は、確かな授業実践と子どもや親と真摯に寄り添う姿勢だけとなります。授業は学力向上を目的とすると同時に、今まで以上に生徒と接する貴重な時間となるのは必定です。子どもや親との限られた接点ともなるその時間を、いかに濃密なものにできるか、その力を今からつけておくことが、最も大切なことだと思います。
忙しすぎて本務である授業研究をする暇すらないような今の状況は、すぐにでも改善しないといけません。それは、制度に関わる問題を多く含んでいますから、文科省をはじめとする行政の仕事です。甘いかもしれませんが、いくらなんでも教職志望者がこれだけ激減しているのに、国が何も手を打たないはずはないと思います。だからこそ、改革が一通り進んだ後のことを今から考えておく必要があると思うのです。(作品No.45HB)