「習っていない漢字はひらがなで書く」は意味あるか?

初めて小学校に勤務(教頭)したとき、どうも腑に落ちないことがありました。先生が「習っていない漢字は使わない」ということでした。確かに、習っていない漢字は読めないでしょうが、黒板に書くときに読み仮名を書けばいいだけのことではないかと思ったのです。私は、中学校で長く授業をしてきましたが生徒がすでに習っているかどうかなど、あまり意識したことはありませんでした(新出漢字は必ず1時間かけて覚えさせましたが)。

時々、各教室の授業を見させてもらっていましたが、教員が黒板に習っていない字を書くと、子どもの中から「先生、その漢字まだ習っていないよ」と声がかかります。指摘を受けた教員は「ああ、そうだったね」といって、わざわざ消して平仮名に書き直しているのです。

例えば、「登校」とかくとき、「登」という字を習っていないと「とう校」と書きます。しかし、こうした熟語は全体のフォルムも大切なのです。大人が、「とう校」というフォルムを見ると、かなりの違和感があります。どのみち、習うのですからそのまま「登校」と書いて、読み仮名を大きく横に書いてやればいいのではないかと思います。熟語の本来の姿を早くから見せた方が、日本語特有のフォルムがイメージしやすくなり記憶にも残りやすいと思うのです。また、ノートに写させるのなら「読み仮名を付けた感じはひらがなでもいいよ」と一言添えればいいだけです。

そうすることで先生の負担も大幅に減ります。先生が習っていない漢字を書けないとなると、どの漢字を何年生で習うかをすべて頭に入れておかなければなりません。ベテランの先生ならまだしも、新任の先生にはそれだけでかなりの負担になるでしょう。

その上、早い段階でできるだけ多くの漢字を見せることで、子どもたちは、自然に覚えるでしょう。わざわざ6年生で習う漢字だからといって、それまで目に触れさせないようにするのは、漢字を習得させる上でもマイナスなのではないかと思います。極端に難しい漢字でなければどんどん目に触れさせてやればいいと思います。

公立小学校教諭で多数の著作のある松尾英明氏は、

「「習った字しか黒板に書かない」を忠実に続けていると、配当表にある漢字以外は一切読めないということになる。」(『不親切のススメ』さくら社、2022、p34)

と指摘しています。

漢字は、読めるよりは読めた方がいいに決まっています。学習指導要領も、最低限必要なこととして学年別配当表を示しているわけですから、その学年で習うべき漢字を扱わないのは問題でしょうが、上の学年の漢字を覚えてはいけないなどと言っているわけではありません。松尾氏は低学年であっても「漢字のクイズ」として、河馬、駱駝、縞馬、土竜など絶対に読めないような漢字を示すこともあるそうです。実際に示すときには、「今日は、哺乳類シリーズだよ」など、テーマを設定する(これが考えるヒントとなります)そうです。子どもたちは、「普通はできないけど、できる子はすごいよ」という課題はとても好きです。

熟字訓までいかなくても、日常的によく耳にする漢字くらいは、学年配当表を気にすることなく、黒板や自作プリントに使ってやればいいと思います。その方が、漢字に興味を持つようになっていくと思います。毎日、決められた漢字を書き写すような宿題などしなくてもきっと書けるようになると思います。見たことのある漢字は、書くことへの抵抗も軽くするものです。

最低限のルール(学習指導要領に定められた内容)さえはずさなければ、いくらでも工夫することはできると思います。こうした思考は、学校の無駄をなくし、効率的な授業を構成するためにも大いに駆使すべきです。

(作品No.179RB)

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